
但馬牛のヒミツ

但馬牛の美味しさの理由
但馬牛は、兵庫県の誇る特産品で、その美味しさには定評があります。
「牛肉は苦手だったけど、但馬牛なら美味しく食べられる」といったお声も聞かれるほどです。
ここでは、但馬牛の美味しさにはどういった理由があるのか、その肉質はどのようなものなのかについて、ご紹介させていただきます。
但馬牛の遺伝的特質
但馬牛の良好な肉質は、その遺伝的な特質に支えられています。
但馬牛の身体的な特徴について、まとめると図のようになります。
頸(くび) | 側面に細かい縦じわが多数見られる |
角 | 細くて断面が丸い
質が緻密 |
額 | 額の上部(角の付け根付近)の皮下に余分な脂肪がつかずにしまっている |
四肢 | 四肢の最も細い部分(管)が細い
管の付近の筋肉が発達し、余分な脂肪がつかず脚が締まっている |
皮膚 | 薄くて柔らかい |
被毛 | 細くて柔らかい
密生している |
蹄 | 大きくて厚い
質が緻密である |
これらはすべて、優れた黒毛和牛の条件となる資質です。
また、但馬牛は小柄で骨が細く、身体の締まりが良いため、良好な筋繊維を持ちます。
さらに、遺伝的に余分な皮下脂肪や内臓脂肪がつきにくいため、小柄ながらも歩留(ぶどまり)が良く、一頭からとれるお肉の割合が高いという特徴があります。
但馬牛を育てる環境
遺伝的に優れた黒毛和牛である但馬牛ですが、そのポテンシャルを最大限に引き出すために欠かせないのが良好な飼育環境です。
但馬牛の子牛は、但馬の豊かな自然の中で、飼い主のきめ細やかな管理と愛情のもと、ストレスの少ない環境でじっくりと育てられます。
但馬地方は、昼と夜の寒暖差で生じる朝露によって育った柔らかい牧草と、ミネラル分の多い水が豊富にあり、牛を育てるのにとても適した環境です。
また、但馬地方は険しい山に囲まれているため、昔は峠を越えて他の地域の牛と交配させることが困難でした。
そのため、牛の改良は谷筋ごとに進められ、「蔓牛(つるうし)」といわれる雌牛の集団ができていきました。
良い母牛は良い娘牛を産むという考え方に基づき、地元でできた良い雌牛を代々残していくという方法で牛づくりが行われてきたのです。
人工授精が普及してからも、他県の牛とは交配せず、県内純血を保っていく「閉鎖育種」が続けられてきたのです。
その結果として、但馬牛の品質がより強固なものとなったといわれています。
現在でも、純粋な但馬牛同士のみが掛け合わせられ、優れた肉質を持つ但馬牛の血統が守られています。
恵まれた遺伝的な特質と豊かな飼育環境から、但馬牛の美味しさは生まれています。
但馬牛の肉質
但馬牛には、遺伝的な特質とその飼育環境から、「小ザシ」と呼ばれるサシ(霜降り)が入りやすいという特徴があります。
しなやかな筋肉によって適度な脂肪を留めることができ、それが美しくきめの細やかなサシとなるのです。
口に入れるとサシが溶け、そのまわりの筋繊維もときほぐれ、和牛特有の口溶けの良さを存分にご堪能いただけます。
また、お肉に熱が加わると、サシと赤身の境界線から和牛ならではの芳醇な「和牛香」が発生するといわれています。

「小ザシ」が入りやすいという資質は、但馬牛の風味が豊かである理由のひとつなのです。
但馬牛の風味が豊かであるもうひとつの理由として、脂の中に含まれる「モノ不飽和脂肪酸」が遺伝的に多いということが挙げられます。
脂には「飽和脂肪酸」と「不飽和脂肪酸」があり、「不飽和脂肪酸」のほうが低い温度で溶ける(融点が低い)という特徴があります。
不飽和脂肪酸のなかでも、近年特に注目されているのが「モノ不飽和脂肪酸」です。
お肉の美味しさは、口の中に広がる旨味成分(アミノ酸・グルタミン酸、イノシン酸など)と、食べたときに鼻に抜ける芳醇な香り(風味)によって感じるといわれており、「モノ不飽和脂肪酸」が多いほど風味が良いとされています。
そのため、但馬牛は肉としての旨味の濃厚さやコク、芳醇な風味を十分に楽しめるお肉となっています。
また、焼いたときの香ばしい香りも格別です。
「但馬牛」として販売できるお肉の条件
以前は、「但馬牛」を素牛とする肉牛が食肉として加工されたものは、すべて「但馬牛」として販売可能でした。
しかし平成27年に地理的表示保護制度(GⅠ)が制定され、「但馬牛」として販売することができるのは、一定の基準をクリアし「兵庫県産「但馬牛®」」として認められたもののみとなりました。
昔のように、「生きている状態が「但馬牛」、お肉になったら「但馬牛」」と簡単に説明することができなくなったのです。
※地理的表示(GI)保護制度:農林水産省が定めた、品質・社会的評価・その他の確立した特性が産地と結びついている産品について、その名称を知的財産として保護する制度
但馬牛は日本の誇る特産品として、夕張メロンなどとともに、いち早く地理的表示(GI)の登録を受けました。
「兵庫県産(但馬牛®)」の条件は以下の通りです。
- 素牛が「但馬牛」
- 生まれ、育ちともに兵庫県
- 本県内の食肉センターに出荷
- 生後28か月齢以上から60ヶ月齢以下の雌牛・去勢牛
- 歩留等級が「A」「B」2等級以上
これらの条件を満たしたものが「兵庫県産「但馬牛®」」であり、「但馬牛」、「但馬ビーフ」等の呼称を許されます。

以前は素牛が「但馬牛」であれば、他県で育てられていても経産牛(母牛)であっても「但馬牛」と呼称されていたことを考えると、条件が厳しくなりました。
月齢や肉質等級の条件が付いたということは、「但馬牛」として販売されている牛肉の質が一定程度保証されるということでもあります。
しかし、「但馬牛」の条件に当てはまらないことは、必ずしも肉質が劣るということではありません。
例えば、平山牛舗一押しの牛肉である「渡辺牛」は、上記の条件のうち「育ちが兵庫県」という条件のみを満たさないために、「但馬牛」として販売することができなくなりました。
しかし、但馬牛を素牛としていることはもちろん、その他の直接的に肉質に関わる条件についてもすべて満たしており、但馬牛)と同等の肉質を有しています。
また経産牛は、お産を終えた母牛を、農家さんがじっくりと「再肥育」し、美味しいお肉へと育てます。
そのため、月齢の若い「但馬牛」と比べると肉の味が濃く、強い風味も出ますので、好んでお買い求めいただくお客様も多くいらっしゃいます。
噛み応えやお肉本来の旨みを楽しみたい方にはとてもおすすめのお肉です。
当店では、「但馬牛」を素牛とし、上記の「但馬牛」の要件にひとつでも当てはまらない牛肉については「但馬うし」と表記して販売しております。
「但馬牛」と「但馬うし」、どちらも違ったおいしさがあります。
ぜひ一度食べ比べて、味の違いをお楽しみください。
但馬牛が黒毛和牛のルーツといわれるのはなぜ?
但馬牛について、「黒毛和牛のルーツ」、「さまざまな有名ブランド牛の素牛となっている」といったフレーズを耳にしたことはないでしょうか。
和牛の歴史、そして三大和牛(神戸牛・松阪牛・近江牛)の起源を紐解いていくと、なぜ但馬牛がそのように称されるのかが見えてきます。
和牛の歴史:「但馬牛」が黒毛和牛のルーツといわれるわけ
江戸時代
牛は農耕用として主に富農が所有し、一軒につき数頭が飼育されていた
当時子牛の生産地は但馬・丹波地方だけであった
そのため、但馬・丹波で生産された子牛は南へ買われていき、神戸・大阪方面で農耕に使われながら移動していき、京都や紀州、松阪方面にまで流れていった
但馬牛といわれたのはいつからか
明治時代
文明開化とともに、日本にも牛肉を食べる文化が広まる
明治31年
日本で初めて血統登録の基本となる「牛籍簿(牛籍台帳)」が整備される
黒毛和牛の血統登録制度の始まりといわれる
明治36年頃
当時、日本の牛は小柄であったため、国や県の指導のもと、より体格のいい牛に品種改良するために、外国の牛と交配が盛んになる
その結果、体型は大きくなったものの、気性荒く農耕に不向きで、肉質の悪い牛が広まってしまった
明治42年
第一回兵庫県産牛共進会で、一等賞として美方郡産の但馬牛が選ばれ、但馬牛の肉牛としての価値が改めて見直されることとなる
そして牛籍簿を活用して混血の牛を特定し、純血の但馬牛の血統が守られた
大正7年
但馬各地の畜産組合によって「但馬牛血統登録組合」が設立され、基礎雌牛の選抜や、その雌牛から産まれた子牛の保留などが行われる
昭和初期
美方郡の牛を中心に、但馬牛の血統の基礎作りが始まる
昭和14年
香美町で「田尻」号という遺伝的能力に優れた雄の但馬牛が産まれ、数多くの子孫を残す
昭和中期
肉質改良のため、但馬牛が全国に買われ、各地の牛と掛け合わせられる
平成24年
全国和牛登録協会が行った調査によって、全国の黒毛和種の99.9%の牛が「田尻」号の子孫、つまりは但馬牛の血統であることが判明する
まずはこのような和牛の歴史から、但馬牛は黒毛和牛のルーツといわれています。
但馬牛なくして、現在の黒毛和牛ひいては全国のブランド牛は存在しないということなのです。
但馬の自然と牛に関わる人々の愛情によって、但馬牛は独自の改良を重ねられ、和牛の発展を支えています。
三大和牛と「但馬牛」の関係:「但馬牛」が黒毛和牛のルーツといわれるわけ
前述したように、全国の99.9%の黒毛和牛には但馬牛の血統が受け継がれています。
但馬牛が黒毛和牛のルーツといわれるのにはもうひとつ理由があります。
全国のブランド和牛の素牛(肉牛として育てられる子牛)として、但馬牛は高く評価されているのです。
昭和4、50年代になると、乳牛の雄子牛や輸入牛肉などの格安の牛肉の販売が増加し、国内の牛肉市場の競争が激化しました。
そのような歴史的背景から、格安の牛肉との差別化を図るため、より優れた肉質の黒毛和牛が求められるようになります。
そこで肉質に定評のあった但馬牛の価値が見直されるとともに、高級ブランド和牛の素牛としての需要が高まりました。
ここでは、特に神戸牛、松坂牛、近江牛といった三大和牛と但馬牛との関係について、簡単にご説明します。
神戸牛
神戸牛は「KOBE BEEF」として世界中のグルメから愛される高級和牛です。
圧倒的な知名度を誇る神戸牛ですが、実は神戸牛と称される黒毛和牛は、すべて但馬牛でもあるのです。
◎BMS値:肉質等級における「脂肪交雑」を評価するための基準
◎歩留等級:枝肉から骨や余分な脂肪を取り除いてどのくらいの割合で肉が取れるかにより「A,B,C」のいずれかにランク付けられる
◎肉質等級:「脂肪交雑」「脂肪の色沢と質」「肉の締まりときめ」「肉の色沢」の4項目によって「1~5」のいずれかにランク付けられる

条件
- 未経産牛、去勢牛
- 肉質等級が脂肪交雑のBMS値No,6以上
- 歩留等級が「A」「B」等級
- 枝肉重量が499.9㎏以下
上記の表を見ていただければわかるように、先述した「兵庫県産(但馬牛®)」の条件に当てはまる黒毛和牛のうちさらに厳しい条件を満たしたものが、「神戸牛」、「神戸ビーフ」としてお店に並ぶことになります。
肥育農家さんの努力もあり、平成30年度には8割以上の但馬牛が神戸牛ランクのものとして認定されています。
平山牛舗においては、「但馬牛」の専門店として、神戸牛ランクのものもすべて但馬牛として店頭に並べさせていただいています。
霜降り肉がお好みの方には、ぜひおすすめさせていただきたいお肉です。
松阪牛
松阪牛はその美しさから「肉の芸術品」ともいわれる、言わずと知れた有名ブランド牛です。
そんな松阪牛の歴史は、実は但馬牛からはじまっています。
明治時代、現在の三重県で役牛としての役目を果たした但馬牛たちが食用として提供されはじめ、その美味しさが広く知られるようになり、これがのちに「松阪牛」となったのです。
そして、但馬牛の肉質を維持するため、三重県の畜産農家の方々は、松阪牛を肥育する素牛として、長年但馬牛の雌子牛だけを導入してきました。
近ごろは松阪牛の素牛は但馬牛以外の子牛でも認められるようになりましたが、但馬牛を素牛として育てられた場合は最高級の松阪牛として「特産松阪牛」の称号が与えられるようになりました。
このことからも、但馬牛が素牛として高い評価を受けていることがわかります。
近江牛
近江牛は和牛の中でも歴史が長く、伝統ある和牛として愛されるブランド牛です。
近江牛はかつては「江州牛」として広く知られていましたが、この「江州牛」も、もとを正せば但馬牛です。
また、もともと「近江牛」は、但馬牛が素牛になっている黒毛和牛だけに許された呼称でした。
現在は素牛が但馬牛以外のものも「近江牛」として販売されていますが、伝統的な「近江牛」はやはり但馬牛を素牛としたものであるといわれています。
但馬牛は他の黒毛和牛と比べて小柄であるため生産性だけを見ると決して高いとはいえませんが、圧倒的な肉質の良さから、但馬牛を素牛とした近江牛だけを育てることにこだわった肥育農家さんもいらっしゃいます。
このように、日本を代表する「三大和牛」それぞれが但馬牛と深い関わりをもっています。
「三大和牛」他にも、前沢牛、仙台牛、飛騨牛など有名なブランド牛がありますが、そのすべてが但馬牛と他の地域の牛とを掛け合わせて品種改良されたものであることが知られています。
日本の黒毛和牛の祖である但馬牛「田尻号」、そして有名ブランド牛と但馬牛との関係の深さ、これらのことから、但馬牛は「黒毛和牛のルーツ」といわれているのです。